太ももの付け根が痛む「大腿骨頭壊死症」とは?整形外科的リスクと鍼灸によるアプローチの最前線
- クゴリハ鍼灸院
- 6月16日
- 読了時間: 6分
「最近、歩くときに太ももの付け根(股関節)がズキズキ痛む」 「階段の上り下りや、あぐらをかく動作がつらい」
このような股関節の痛みでお悩みではありませんか?股関節の痛みを引き起こす疾患にはいくつかの種類がありますが、その中でも特に注意が必要なのが「大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)」です。
今回は、この病気がどのようなメカニズムで起こるのかを整形外科的な視点から分かりやすく解説し、さらに近年注目されている「鍼灸治療(しんきうちりょう)」がどのように痛みの緩和や日常生活のサポートに貢献できるのか、専門的な知見を交えて詳しくご紹介します。
1. 大腿骨頭壊死症とは?(整形外科的メカニズム)
大腿骨頭壊死症とは、太ももの骨の先端にある、骨盤とはまり合っている球体部分(大腿骨頭)の血流が低下し、骨の組織が死んでしまう(壊死する)病気です。
骨の組織が壊死したこと自体では、実は強い痛みは生じません。しかし、壊死して脆くなった骨頭に体重がかかり続けることで、骨が微小な潰れ(圧潰:あいつぶれ)を起こします。この「骨頭の潰れ」が始まったときに、初めて強い痛みを自覚するのが特徴です。

上記のイラストの通り、正常な股関節では大腿骨頭に豊かな血管が巡っていますが、何らかの原因でこの血流が途絶えると、骨の修復が追いつかずに構造が維持できなくなってしまいます。
主な原因とリスク因子
厚生労働省の指定難病(特発性大腿骨頭壊死症)にも指定されており、主に以下の2つのリスク因子が深く関係していることが分かっています。
ステロイド薬の大量服用歴: 膠原病(こうげんびょう)や免疫疾患、腎疾患などの治療で高用量のステロイドを使用した経験がある場合。
頻度が高く、多量の飲酒歴: 長年にわたり、毎日お酒を多く飲む習慣がある場合。
※これらに該当しない「骨折などの外傷後」に起こるものは「症候性大腿骨頭壊死症」と呼ばれます。
整形外科での一般的な治療方針
整形外科では、X線(レントゲン)やMRI検査によって病期(ステージ)や壊死の範囲(型)を分類します。
ステージ・状態 | 主な治療方針 |
初期(骨頭の潰れがない・軽度) | 体重管理、杖の使用、消炎鎮痛薬による保存療法 |
進行期(骨頭の潰れが大きく、痛みが強い) | 骨切り術(自分の骨の向きを変えて体重を支える)や**人工股関節置換術(THA)**などの手術療法 |
2. 鍼灸治療がもたらすアプローチと役割
「骨が壊死しているなら、鍼灸(はり・きゅう)は意味がないのでは?」と思われるかもしれません。確かに、鍼灸治療によって一度壊死してしまった骨の組織を元の元気な骨に再生させることはできません。
しかし、大腿骨頭壊死症に伴う「慢性的な痛み」や「歩行困難」に対して、鍼灸は整形外科的治療を補完する非常に有効な手段(コンディショニング・痛みの管理)となります。
専門的な視点から、鍼灸が効果を発揮する3つのメカニズムを解説します。
① 周辺筋肉の代償性筋緊張(二次的疼痛)の緩和
股関節の骨頭が潰れ始めると、関節の滑らかな動きが失われます。すると体は、痛む股関節をかばおうとして、周囲の筋肉を過剰に緊張させます。 具体的には、大臀筋(お尻の筋肉)、中臀筋(骨盤を支える筋肉)、大腿筋膜張筋、内転筋群(太ももの内側)、腸腰筋(深部にあるインナーマッスル)などがガチガチに強張ります。
実は、患者様が訴える「ズキズキする痛み」の多くは、骨そのものの痛みだけでなく、これら周囲の筋肉が酸欠状態に陥ることで発生する「筋・筋膜性疼痛(きんきんまくせいとうつう)」が混ざっています。
鍼灸治療では、これらの過緊張を起こしているターゲット筋へ的確に刺鍼し、局所の血流を劇的に改善させることで、トリガーポイント(痛みの引き金となる硬結)を解除し、二次的な痛みを大幅に和らげます。
② 関節包への微小循環(血流)の促進
股関節を包んでいる「関節包(かんせつほう)」やその周囲の組織は、炎症によって慢性的なうっ血状態になりがちです。股関節の深部に響かせるような専門的な鍼通電療法(パルス療法)や温熱を伴うお灸を行うことで、骨盤周囲の副交感神経を優位にし、局所の血管を拡張させ、微小循環を促します。 これにより、関節内の痛みを引き起こす発痛物質の洗い流しを促進します。
③ 自律神経の調整によるペインコントロール
長期にわたる慢性痛は、脳の痛みのブロックシステム(下降性抑制系)を疲弊させ、痛みに過敏な状態(中枢性感作)を作ってしまいます。鍼灸刺激は、脳内エンドルフィンなどの脳内麻薬様物質の分泌を促し、痛みの閾値(痛みを感じるボーダーライン)を上げることで、不快な痛みをコントロールしやすくします。
3. 鍼灸施術の流れ
股関節周辺は非常に厚い筋肉に覆われているため、解剖学的な知識に基づいた正確なアプローチが必要です。
1.丁寧な問診と整形外科的テスト:状態の把握。
まずは整形外科での診断内容(ステージや手術の予定など)を確認します。その上で徒手検査を行い、現在どの筋肉が痛みの主因になっているかを評価します。
2.深層筋(インナーマッスル)への的確な刺鍼:痛みの芯へアプローチ。
お尻の奥にある「梨状筋(りじょうきん)」や、股関節の前面を支える「腸腰筋(ちょうようきん)」など、一般的なマッサージでは届かない深部の筋肉に対して、安全かつ的確に鍼を届かせます。
3.お灸による温熱療法:血流の持続的な改善。
股関節周辺の主要なツボ(「環跳(かんちょう)」「居髎(きりょう)」「足三里(あしさんり)」など)に温熱刺激を与え、冷えによる筋肉の硬化を防ぎ、自律神経を安定させます。
4.セルフケア・動作指導:日常生活の負担軽減。
施術の効果を長持ちさせるため、股関節に負担をかけない歩き方、骨盤を安定させる簡単なストレッチ、自宅でできるセルフお灸の場所をご指導します。
まとめ:医療の「掛け合わせ」で、あなたらしい生活を維持するために
大腿骨頭壊死症と診断されると、「もう歩けなくなるのではないか」「すぐに手術をしなければいけないのか」と強い不安を感じる方が多くいらっしゃいます。
しかし、ステージが初期であれば、整形外科での適切な経過観察と並行して、鍼灸治療で周囲の筋肉や関節のコンディションを整えることで、痛みを大幅にコントロールし、手術の時期を遅らせたり、QOL(生活の質)を高く維持したまま日常生活を送ることが十分に可能です。
また、将来的に手術(人工股関節置換術など)を受けることになった場合でも、術前・術後に周囲の筋肉を柔らかく健やかに保っておくことは、術後のスムーズなリハビリテーションと早期回復に絶大なメリットをもたらします。
ぜひ一度当院にご相談ください。
.png)



コメント