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呼吸障害に対する鍼灸治療について

  • クゴリハ鍼灸院
  • 29 分前
  • 読了時間: 5分
肺は酸素と二酸化炭素を交換する場所
肺は酸素と二酸化炭素を交換する場所

呼吸障害に対する鍼灸治療のエビデンスは、疾患によってばらつきがありますが、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)における呼吸困難の緩和に関しては、複数の研究やメタアナリシスで有効性が示唆されています。


疾患別の鍼灸治療のエビデンス



1. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)


COPD患者の**労作時息切れ(呼吸困難)**に対する鍼治療の有効性を示すエビデンスが多く存在します。

  • 呼吸困難の改善:複数の無作為化比較試験(RCT)やシステマティックレビュー、メタアナリシスにおいて、鍼治療が対照群(シャム鍼など)と比較して呼吸困難の重症度を軽減し、**生活の質(QOL)6分間歩行距離(運動耐容能)**を改善する可能性が示されています。

  • 作用機序の可能性:鍼治療は、呼吸筋や呼吸補助筋の筋緊張を緩和し、胸郭コンプライアンスを改善することで、換気効率の向上や呼吸困難の軽減につながると考えられています。

  • 急性増悪:COPDの急性増悪に対する補助療法としての鍼治療の有効性を示唆するメタアナリシスもあり、臨床指標や肺機能の改善に寄与する可能性が報告されていますが、エビデンスの質は中程度から非常に低いと評価されているものもあります。


2. 気管支喘息


気管支喘息に対する鍼治療の有効性については、確立した見解はまだ得られていません

  • 臨床研究の現状:鍼治療の効果を検討した臨床研究は数多く存在しますが、研究デザインや治療方法のばらつき、研究規模の小ささなどから、一貫した結論には至っていません。

  • 示唆される効果:一部の研究では、鍼治療により気道炎症や気道過敏性亢進の改善肺機能の一部の指標(呼気量の増加など)の改善が示唆されています。


3. その他


  • 慢性呼吸器疾患全般:慢性呼吸器疾患における呼吸困難の軽減には、鍼治療が効果的で安全な非薬理学的補完療法となる可能性があるというメタアナリシスの結論があります。

  • 炎症への作用:鍼治療は、抗炎症作用や免疫調節作用などを通じて、呼吸器疾患の病態に関わる炎症を軽減する可能性が示唆されています。


エビデンスの限界と今後の課題


  • エビデンスの質:特に喘息など、一部の呼吸器疾患では、エビデンスの質が低かったり、研究間で結果にばらつきが見られたりすることが課題です。

  • 研究の標準化:鍼治療の研究においては、治療プロトコルの標準化大規模なRCTの実施長期的なフォローアップ評価が必要とされています。

  • メカニズムの解明:鍼治療が呼吸困難を改善する具体的なメカニズム(神経系の調節、筋緊張の緩和など)について、さらなる解明が期待されています。

現時点では、COPDの呼吸困難に対する補助療法としては比較的有望なエビデンスがありますが、他の呼吸障害については、有効性を断定するにはさらなる質の高い研究が必要です。

呼吸障害に対する鍼灸治療の安全性については、重大な有害事象の報告は少ないとされています。




●特に疾病を有する方が多いCOPDについて●


COPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する鍼灸治療は、主に呼吸困難(息切れ)の軽減運動耐容能・生活の質(QOL)の改善を目的に行われます。

実際には、呼吸筋の緊張を緩めること、および全身のバランスを整えることに重点を置いた施術が行われます。


鍼灸治療の具体的な実践


1. 治療の対象と目標

治療対象

主な目標

労作時の呼吸困難

息切れの重症度を軽減する。

運動耐容能の低下

6分間歩行距離など、運動能力を改善する。

呼吸筋の過緊張

肋間筋や横隔膜、補助呼吸筋(首、肩など)の緊張を緩和する。

QOLの低下

日常生活動作(ADL)や全体的な生活の質を向上させる。


2. 使用される主な経穴(ツボ)


COPDの鍼治療では、主に呼吸に関わる筋肉や神経にアプローチできるツボ、および肺の気の流れを整えるツボが選ばれます。

  • 局所/近接のツボ

    • 天突(てんとつ):鎖骨の間のくぼみ。咳や痰、喉の症状に。

    • 膻中(だんちゅう):胸の中央。呼吸器の症状や精神的な安定に。

    • 肺兪(はいゆ):背中の肩甲骨の下あたり。肺の機能に直接影響するとされる。

  • 遠隔のツボ

    • 尺沢(しゃくたく):肘の内側。咳を和らげる効果が期待される。

    • 孔最(こうさい):前腕。咳や喉の痛みに。

    • 合谷(ごうこく):手の甲。全身の気の流れを調整する。

また、呼吸補助筋である胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋、肋間筋などの過緊張を緩めるために、これらの筋肉または関連する遠隔のツボに鍼が用いられます。これらの筋肉の緊張が緩むことで、胸郭の動きが改善し、呼吸が楽になることが期待されます。


3. 施術の方法


  • 鍼治療:選択されたツボや過緊張した呼吸筋に対し、細い鍼を刺入し、軽い刺激を与えます。筋肉の深層部までアプローチして緊張を緩和することが重視されます。

  • 灸治療:温熱効果により、特に冷えや痰の症状がある場合に、腹部や背中のツボに対して使用されることがあります。温かい鍼治療(温鍼)という、鍼の柄にもぐさを付けて温める方法が用いられることもあります。

  • 治療頻度:有効性を得るためには、ある程度の期間(例えば1〜2か月)定期的に継続することが推奨されます。症状が安定した後は、メンテナンスとして頻度を減らすことが一般的です。


4. 期待される作用メカニズム


COPD患者の呼吸困難を改善する機序として、鍼治療は以下のような効果をもたらすと考えられています。

  1. 呼吸筋の筋緊張緩和:過剰に活動している肋間筋や補助呼吸筋の緊張を緩め、胸郭の可動性を高め、換気効率を改善します。

  2. 自律神経系の調整:自律神経のバランスを整えることで、呼吸困難に伴う不安や緊張を緩和し、全身状態を安定させます。

  3. 内因性オピオイドの放出:鍼刺激により体内で痛みを抑える物質が放出され、呼吸困難の感覚(息苦しさ)を軽減する可能性が指摘されています。

臨床試験でも、鍼治療により、呼吸困難の重症度、6分間歩行距離、QOLなどが改善する結果が報告されています。



呼吸障害に対する対応としては呼吸機能訓練や有酸素運動といったリハビリテーションも必要になってきます。当院では理学療法士が在籍しており疾患別の運動療法についてもご相談いただけます。

 
 
 

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