top of page

脳卒中片麻痺に対する鍼灸治療について

  • クゴリハ鍼灸院
  • 10月15日
  • 読了時間: 4分

脳卒中後の片麻痺(体の片側の麻痺)は、多くの患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させる後遺症です。鍼灸(鍼と灸)治療は、アジア諸国を中心に、このリハビリテーションの補助療法として広く用いられています。

伝統的な医学的見地からは、鍼灸は経絡(気の通り道)の流れを調整し、麻痺した部位の気血の巡りを改善することで機能回復を促すとされています。

ree

文献考察から見た鍼灸の効果


近年の臨床研究、特にシステマティックレビューやメタアナリシスでは、鍼灸治療が脳卒中片麻痺に対して一定の効果を持つ可能性が示されていますが、そのエビデンスの質や一貫性についてはさらなる検証が必要とされています。


1. 運動機能の改善


  • 鍼治療:複数のランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシスにおいて、標準的なリハビリテーションに鍼治療を併用することで、特に運動機能の評価スケール(例:Fugl-Meyer Assessment (FMA)など)で優位な改善が見られたとする報告があります。これは、鍼が脳血流の改善、神経保護作用、神経可塑性の促進などのメカニズムを通じて作用している可能性が考察されています。

  • 灸治療:灸についても、いくつかのRCTでは運動機能の改善に有益な効果が示されています。しかし、活動性(日常生活動作:ADL)の改善については、効果が示されていない研究もあり、限定的なエビデンスであるとの結論が示されているレビューもあります。


2. 歩行の改善


  • 鍼治療とリハビリテーションの併用は、歩幅、ケイデンス(歩行率)、歩行速度といった歩行パラメータを改善させる可能性が示唆されています。これにより、片麻痺患者の移動能力と機能的自立度の向上が期待されます。ただし、研究間の異質性(I²が高い)や、バイアスリスクの高さが指摘されており、確固たる結論を出すにはさらなる質の高い研究が求められています。


3. その他の症状への効果


  • 痙縮(筋肉のつっぱり):脳卒中後の痙縮に対する鍼灸の効果を示唆する臨床研究もあり、麻痺肢の筋緊張や運動機能の改善に寄与する可能性が報告されています。

  • 失語症:一部のRCTでは、鍼治療が脳卒中後の失語症患者の重症度や機能的なコミュニケーション能力、QOLの向上に優れていることが示されています。

  • 合併症:灸治療は、脳卒中後の排尿障害や便秘、睡眠障害、不安・抑うつなどの精神的症状の改善に効果を示す可能性が示唆されています。


文献考察における課題と限界


  • 研究の質とバイアスリスク:これまでの多くの研究では、治療法の割り付けの隠蔽や盲検化(特に鍼治療では困難)といった点での方法論的な質の低さ、また高いバイアスリスクが指摘されています。

  • 異質性の高さ:研究間で、脳卒中のタイプ(脳梗塞、脳出血)、病期(急性期、回復期、慢性期)、重症度、使用された鍼灸プロトコル(取穴部位、刺激方法、治療回数・期間)などが大きく異なっており、結果の統合や一般化が難しい状況です。

  • 作用機序の解明:鍼灸がどのようにして片麻痺の改善に寄与するのかという科学的なメカニズムについては、神経保護、炎症反応の調節、血管拡張による血流改善、神経可塑性の誘導など、様々な仮説が提唱されていますが、完全には解明されていません。


まとめ


現時点の文献考察からは、脳卒中片麻痺に対する鍼灸治療は、標準的なリハビリテーションと併用することで、特に運動機能や歩行の特定の側面の改善一定の臨床的有効性を持つ可能性が示されています。しかし、より強固なエビデンスを確立し、安全かつ効果的な治療プロトコルを標準化するためには、方法論的に質の高い、大規模なRCTの蓄積が引き続き必要とされています。

臨床現場では、鍼灸治療はリハビリテーションの補助的な治療選択肢の一つとして、患者さ

んの状態や希望に応じて検討されています。




クゴリハ鍼灸院では頭皮針療法を用いてアプローチしています。代表は鍼灸師であるだけでなく理学療法士でもあるので機能訓練の相談もお受けできます。

 
 
 

コメント


© 合同会社クゴリハ
bottom of page